特別寄稿 ほほえみ第64号(平成26年6月号)

『「障害者権利条約の批准」に思うこと 』

障害者支援施設 志貴野苑 所長  塚 原 博 密

 国連の『障害者の権利に関する条約』を日本も批准し、本年2月19日から効力が生じた。日本の批准は欧州連合の批准を含め世界141番目。2006年12月国連総会で採択され、2008年5月条約発効から5年余りかかったのは国内法の整備が必要とされていた。2011年「障害者虐待防止法」成立。同年「障害者基本法」一部改正。2013年「障害者差別解消法」が成立し、条約の承認案が昨年12月に国会で正式承認された。

 この条約は、障害を理由としたすべての差別を禁止し、障害者の権利・尊厳を守ることとし、障害者が地域で生活するため公共施設を使いやすくするなど、様々な分野で合理的配慮が求められることとなります。障害を持っていても、地域社会で生活する権利を他の者と平等にもっており、障壁が取り除かれ、他の者と同じように生活できるよう目指しています。

 日本の福祉施策は時代とともに大きく変わってきた。1970年代、社会福祉施設緊急5か年計画により福祉施設整備の時代となりました。これは都市化・工業化・核家族化・高齢化に伴う家族・地域の介護力・養育力の弱化という時代背景から、全国で入所施設を建設しました。今でもその必要性が無くなるものではなく多くの施設が活動しています。1990年代には、地域で暮らしたいという意向が高齢者や障害者より出てきたため、市町村を基盤とした在宅福祉サービス整備の時代を迎えました。2000年には社会福祉法改正・介護保険法施行と、福祉サービスを利用する立場からの法律にかわり介護保険制度がスタートしました。2003年には、身体障害者と知的障害者福祉において措置制度から支援費制度へと利用契約制度に代わり、2005年には障害者自立支援法が施行され、身体・知的・精神の3障害一元化となり、施設体系についても日中活動支援と夜間の居住支援を分離し大きく変わりました。前記、国内法の整備とともに、2013年障害者総合支援法が施行され、基本的人権を享有する個人としての尊厳が明記され、この条約の批准となりました。

 障害者が一人暮らしを、或いは、入所施設から出て地域生活を始めるには、生活の場を確保しなければならない。地域住民の障害者への理解はもとより、身体的なハンディーをカバーしうる設備であること、通勤・通院・買い物が可能な環境であることなど障害を持たない者よりも条件は厳しくなる。また、費用についても多くは出せない障害者の方は多い。障害がある為に、緊急の時や想定できる場面でのヘルパーや協力者が必要となる。障害者が地域で生活するには、生活の場・生活費・人的サポートの条件をすべて満たさなければ踏み切れないケースも多い。

障害者個々の要望に叶う福祉サービスをひとつずつでも増やしていくことが障害者の地域生活を推し進めることにつながると思う。しかし昨今、介護職・福祉職になろうとする者も減少傾向にあり、福祉サービスを提供する事業所が地域に増えるかも危ういのではないだろうか。また、要望する障害者が少数で利用回数の少ない福祉サービスの場合、その地域で事業は成り立つのだろうか。

 加えて、障害者や障害者の介護・支援に携わる家族の高齢化も進んでいる。個々の障害内容や環境でも異なるが、地域社会での生活に限界を感じている方も居られる。

支援区分認定・介護認定を受けたが、認定が低いため福祉サービスを利用できない。年金など収入額が少ないので福祉サービスを使うことをためらう、或いは、施設に空きがなくて利用できないなどのケースも少なくない。高齢者施設に入れないので障害者施設での入所を継続し、看取りまでという考え方もあり、現行施設のあり方や設備を変えているところもあると県外の障害者施設での話も聞く。

地域での生活、施設入所での生活、何れにせよ障害者本人の選択を尊重し、個々の障害者が置かれている環境を考慮し、障壁を取り除くための多様な要望に応えることは一事業所だけでは難しい。事業者間そして医療・障害者福祉・高齢者福祉・地域行政などとの連携を一層図り、要望に応えようとするサポート体制は欠かせない。

 

 

『塚原氏のこと』

理事長  笠島 學

 私が高岡市身体障害者福祉会という社会福祉法人の3代目理事長を引き受けてから早18年目になりますが、塚原氏は法人の生え抜き職員であり、現在は本部事務局長兼理事を務めてもらっています。実に真面目な性格で、措置の時代から障害者授産に深く関わり、しっかりとした意見をもっています。悪法の障害者自立支援法が出来たと思ったら日和見的に頻繁に改正され、障害者福祉は専門家でも今がどうで、将来がどうなるか全く見通せない状況が続いています。障害程度の軽い人は施設から出ろ、職住分離をしろという方針が示されていますが、現実は現施設を出ても生活ができない人が多くいます。寄稿文の途中を削除したため理解しづらいかもしれませんが、どうか塚原氏の障害者を想う気持ちと苦悩を分かってください。

特別寄稿 ほほえみ第64号(平成26年6月号)

『元気の源は「きれいな舞姿」に』

      平下 由紀子 (二代目藤間勘登栄)

 日本舞踊の藤間流藤栄会を主宰しています二代目藤間勘登栄と申します。じっとしているのが苦手な私は、絶えず動いているからでしょうか。同居している長男夫婦が共働きのため、家事や孫たちの世話は日課。限られた時間の中で日本舞踊の稽古に励んでいます。周囲の人が思うような忙しさは自分自身で感じておりません。時間に追われる生活の中でも、全てに集中するように行動しているため、体力的に疲れることはあっても、精神的に疲れることがあまりないのです。それが「元気な姿」に映るのでしょうか。心身ともに健全でなければ元気とは言えないと思いますので、体力づくりに加えて日々リラックスした気持ちでいることを心掛けています。

 母である初代藤間勘登栄に師事して幼少時から日本舞踊を始め、この道は半世紀以上になりました。日本舞踊の魅力は、さまざまな演目の踊りを通じて、現実と別世界の多彩な役柄を演じられることでしょうか。お姫様や芸者、町娘、武士など数え上げればきりがない色々な役に挑戦できます。驚かれる方がいるかもしれませんが、ここに掲載されている写真は2年前に私が躍った姿で、このような格好もします。

 日本舞踊の踊り手は、日々、地道な稽古を続けていなければ、きれいな舞姿を保つことはできません。そのため、定期的に舞台に立つ人は稽古を怠ることができないのです。スポットライトを浴び、華やかに見える舞台で演じるのは実は大変なエネルギーが必要で、お客様に喜んでもらえる踊りを披露するには、日常の稽古や体力づくりが欠かせないと言えます。

 私の場合は、目標に向かって続ける努力は苦痛でなく楽しく、「毎日の小さな努力が大切」と自分に言い聞かせています。ウォーキングをしなければ、とか何か運動をしなければ、と義務的に体を動かしても長続きしないと思いますし、毎日、自分のペースで適度に無理せずに体力づくりに励むことが長続きにつながると思います。

 振り返りますと、これまでに舞台でさまざまな演目を踊ってきましたが、「これは良かった」と満足できる踊りは一度もありません。「日本舞踊は一生修行」という思いを持っており、満足できないからこそ「次の舞台に向けて頑張ろう」との気持ちがわき上がり、それが、周りの人から言われる元気や若さの秘訣になっているのでしょうか。ただ、年齢を重ねますと、体力は若い頃には及ばず、思うように体が動かずにさみしく感じることもあります。しかし、日本舞踊では重ねた経験の分だけ深みのある踊りが披露できると思っていますし、気持ちを前向きに精神的にリラックスした状態で、稽古を含めて日常の生活を送っております。

 毎日の地道な努力の積み重ねが、舞台での美しい舞姿となって表れますように願っているのです。

 

 

『平下さん、寄稿有難う』

      理事長   笠島 學

 平下さんとは高陵中学時代の同級生で団塊世代です。たまたま同級生がやっているスナックで一緒になり、元気溌剌な処を文章にしてよ、と頼んだら、快く引き受けてくれました。めったに会いませんが、会うと明るく歯切れよくしゃべり、踊りをやっている為に姿勢が良く、実際の年齢より随分若く見える彼女から若さと元気の素をもらっています。

巻頭言 ほほえみ第64号(平成26年6月号)

 光ヶ丘病院や老健おおぞらの川沿いで一斉に咲いた桜も散り、新緑が映える清々しい季節となりました。さて今春の診療報酬改正で、高度急性期病院は重症患者を一層多く引き受け、更に75%以上を「在宅」に還すことが義務づけられました。在宅の中には在宅復帰をやっている病院・老健が含まれています。つまり、在宅復帰をやっていない老人収容型療養病院には、急性期から紹介されないという事態が危惧されます。対策として、法人内の訪問看護、3か所のショートステイ、2ヶ所の通所リハビリ、訪問リハビリ、小規模多機能、地域包括、地域連携室などの在宅部門を一元的に管理しレベルアップを図るのは当然ですが、医療療養病棟は在宅復帰機能加算を何としても取得して急性期病院との密な連携を確実なものにしたい。そして13対1看護の2B病棟を地域包括ケア病棟にするべく検討しています。これには、データ提出という膨大な事務量増加に耐える覚悟が要ります。更に、できれば老健も在宅復帰の加算老健にしたいと願っています。去年半年間は取得できたので再取得するのは不可能ではないでしょうが厳しい在宅復帰の壁が立ちはだかっています。また、二百床以上の病院に在宅支援後方病院が新設されたので、当院も真剣に取り組み、開業医との連携を深め、登録在宅患者さんをいつでも引き受ける契約を結ぶよう進めていきたいと思っています。

 

今年の新人職員で、当法人での実習がよかったので選んだという人がおられました。介護・看護ともにいい人材が欲しいし、長く務めてもらいたいので、学生実習や入社後教育にも手ぬかりなく温かさと厳しさをもって接していただきたいものです。

 

4月より当院に富山大学2内准教授だった能澤先生が診療部長として着任され、循環器系が充実しました。早急に心大血管リハビリを開始しますが、これで脳神経・運動器・呼吸器リハに加えてすべてのリハの最高ランクを取得することになります。

 

 中島看護部長が看護管理の認定看護師の最高ランクの研修を修了されました。合格すれば当院の認定看護師は感染管理・認知症と併せて3名になります。9月の全日病学会には外来、2B病棟、リハビリの演題が決まっており、着々と準備しています。6月と10月の老健ブロック・全国大会にも発表し、11月の慢性期医療学会にも複数演題を発表します。いつも言っていますが質の高い医療・ケアを目指して、やる気のある人、上級資格をめざす向上心のある人には、いつでも物心両面にわたる支援を惜しみません。

 

紫蘭会理事長  笠島 學

常勤医師

保健師

巻頭言 ほほえみ第63号(平成26年1月号)

 ほほえみは5か月毎に出しているので、今回は正月発刊となります。皆さん、あけましておめでとうございます。今年は医療も国民生活も良い方向に向かってくれることを願っています。病院では9月に介護病棟の6床を医療療養床に転換し、医療系ショートステイを介護病棟で施行していますが、医療も介護も必要な重症患者さんを引き受ける当院の方針に見合ったもので特に問題なく経過しています。今後近いうちに大きな病棟再編成を決断する時期がくるでしょう。

 

 また、基幹病院との連携を密にしています。高岡市民病院とは3年前より脳卒中・大腿骨頸部骨折で連携パスを結び、厚生連高岡病院とは昨春から感染症対策で連携をとりあっていますが、新たに秋より救急搬送患者連携を済生会高岡病院も含めた3病院と次々に契約しました。これからも真生会富山病院や社保高岡病院などとも病病連携を密にしていきたいと思っています。勿論、診療所の先生方からの在宅患者の紹介は喜んで引き受けます。もし要望があれば、開放病床の扱いとして自由に病院内で診察され、良くなったら連れ帰ってもらっても構いません。

 

 11月に全日病学会に2題と慢性期医療学会に6題を発表してきました。皆自信を持って、いきいきと発表するのをみて頼もしく感じました。いつも言ってるように、やる気があり、1つ上の資格を目指す職員に対しては、惜しみなく支援をします。常に向上心をもち、「病める人に光を」与えようではありませんか。

 

紫蘭会 理事長  笠島 學

巻頭言 ほほえみ第62号(平成25年8月号)

 暑い日が続きますが今年の夏はかつてない猛暑になりそうですから、熱中症には十分ご留意ください。昭和56年7月に開設した光ヶ丘病院も32年が経過し、県内有数のバラエティに富んだ在宅サービスと施設サービスを有する医療法人として着実に歩んできました。最近は、在宅や介護施設からの緊急入院が増えてきており、地域との連携の輪が少しずつ広がってきているのを実感しています。在宅医療では、要望の多い言語聴覚士が加わり6名のスタッフがいる「訪問リハビリ光ヶ丘」や訪問件数が伸びて開業ドクターとの信頼関係が厚い「訪問看護ステーションほのぼの」や入院相談の入り口でもある地域連携室がしっかりと対応しており、医療処置に対応できる3か所のショートステイや言語聴覚士もいる2か所の通所リハビリ、2か所の居宅介護支援事業所とお互いの連携を密にしています。

 

 先月から「老健おおぞら」で20%の施設しか取れていない在宅加算が取得できました。在宅復帰をかかげる老健なので、地域包括支援センターやケアハウス、グループホームを併設している強みをいかして、地域包括ケアの要としての役割を果たしていきます。

 

 日本慢性期医療協会の在宅医療講座が4月から3か月間あり、6時間ずつ6回の講義を受講してきましたが、慢性期医療の重要性を再確認し、講師陣の在宅に対する情熱を感じてきました。受講内容を吟味し、当法人にどう生かすか思案中です。

 

 現在、看護部長が看護協会のセカンドステージ研修中で、その後は師長・主任達を次々とファーストレベル研修をさせたいと言われ、介護を含めた看護教育にかける情熱は頼もしい限りです。是非、今、活発に行っている質の高い看介護研修を継続してください。

 

 病棟は病室転換を工夫することで介護療養を可及的に減らし、医療療養を増やす方針でいきますが、医療度の高い重介護患者が増えるのは、むしろ、望むところであり、スタッフのモチベーションも上がるでしょう。常に研鑽を積み、質の高い「ケア」を目指すのは、医療人にとって、当然の使命です。

 

紫蘭会 理事長  笠島 學

医療安全研修会

医療安全研修会の様子 photo-iryouanzen-H25.8.7-1 photo-iryouanzen-H25.8.7-2 photo-iryouanzen-H25.8.7-3 photo-iryouanzen-H25.8.7-4 photo-iryouanzen-H25.8.7-5 photo-iryouanzen-H25.8.7-6 photo-iryouanzen-H25.8.7-7 photo-iryouanzen-H25.8.7-8

感染対策院内研修

感染対策院内研修の様子です。 kansen-kensyu1 kansen-kensyu6 kansen-kensyu5 kansen-kensyu4 kansen-kensyu3 kansen-kensyu2

巻頭言 ほほえみ第61号(平成25年3月号)

 こんなに風邪をこじらせたことは10年以上記憶にありませんが、体調が悪いです。皆さんも自身の健康管理には十分留意してください。

 

 一昨年暮れに慢性期医療認定病院となって、今後ますます重要性を増す「良質な慢性期医療」主体の法人として、医療・ケアの質の一層の向上に取り組んでいます。在宅医療を重視し、当法人が行なっている3ヶ所のショートステイ・訪問看護・訪問リハビリ・2ヶ所の通所リハビリ・地域包括支援センター・訪問診療などを有機的に結合させながら医療介護施設・ケアマネージャー・行政・住民の方々と顔の見える連携をとっていきます。

 

 医療も介護も必要な重症患者を多く引き受けている光ヶ丘病院では、昨春の報酬改正から、多岐にわたる病院機能を高める事項に取り組んでおり、感染症対策や栄養サポート、看護必要度では既に成果をあげました。2月には医療安全、3月には診療録管理の部門で県に届け出をします。ここまでくるのには多数の職員の涙ぐましい努力があり、感謝の気持ちで一杯です。ついこの前までは、急性期基幹病院しか取得できないと諦めていた加算がとれたのは職員の大きな自信に繋がるでしょう。

 

 4月からは新しい仲間が増えます。新卒正看は4人が当院を選んでくれました。看護学生は準看に合格した3人を含めて過去最高の学生数を抱えることになります。学生実習の方も看護学校・介護福祉士養成校・リハビリ養成校・訪問看護実習など目白押しですが、この病院で働いて良かった、ここで実習して為になったと言われるよう指導者の皆さんの健闘を期待しています。また、ワークライフバランスに沿って、有給休暇の消化率を高める努力をしていきます。

 

 いつも言っていますが、やる気のある人、一つ上の資格を目指す人に対しては、法人は、できる限り援助します。働きながら来年は大学修士課程を卒業する職員もいます。人材(人財)育成は法人の命と思っています。

 

紫蘭会 理事長  笠島 學